小平市役所
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そのころの明かりは、天井からコードでつった電球の電灯だったの。
コードが長いから笠の上で手繰(たぐ)って丸め、ひもで縛っておくのが、普通だったね。
薄暗くなって電球のスイッチをパチンとひねると、ぱっと明るくなるでしょ。そうすると壁やふすま、障子にいろんな影が映るの。
歩けば影は伸びたり縮んだり動くんだよ。
障子に映る影は、近づくと小さくなり、離れると大きくなって、ただの影だけど、おもしろかったね。
影絵のときは、電灯を畳の上から七、八十センチぐらいのところまで下げるの。
それで明かりの前にかざした手で、いろんな形を作って映すんだよ。きつねやうさぎは、片手で簡単に出来るし、
両手を組み合わせると、犬やおおかみ、とんび、ちょうちょ、やかんと、いろんな形が出来るの。
それがとっても楽しくて、みんなで次々やっていると、晩酌しているじいちゃんの十八番が飛び出すのよ。
それはね、船頭さん。握り拳(こぶし)におちょこをかぶせて、箸(はし)の櫂(かい)を持たせると、影が船頭さんにそっくりになるの。
それでもう片方の手を舟にして、ギッチラ、ギッチラとこぎ出してくるのよ。
とっても上手で、思わずみんな手をたたいたね。
兄ちゃんは手じゃなくて、自分の影を映すの。それで「大入道だぞう」って、だんだん影を大きくしながら覆(おお)いかぶさって
飛びかかるから、「キャー」って逃げるのが、怖くておもしろかったね。
小さな妹や弟たちも、簡単なきつねや犬を教わって影絵を映すの。指がうまく組めないと、思う形にならないし、
光の当て方しだいでいい影絵にならないこともあるから、ほめてもらいたい一心で真剣にやっていたね。
「上手にできた」と言われると、うれしそうだったよ。
それからこんなこともあったよ。外が暗くなってから帰るとき、街灯の下を通るでしょ。
はじめは後ろに長く伸びていた自分の影が、歩くにつれて縮んでくる。街灯を過ぎると、影は前に移って、今度はだんだん長くなる。
走ると影も走る。離れない。急におっかなくなって、家までかけ通しにかけて、帰ったこともあったね。