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市史編さんこぼれ話 No.6「消えゆく雪合戦」

更新日: 2010年(平成22年)1月28日  作成部署:教育委員会教育部 図書館

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「雪がこんこんと降っています。人間はその下で暮らすのです」。戦後の教育界に衝撃を与えた『やまびこ学校』の巻頭である。雪は学校になじむ風景である。それは小平の学校も例外ではなかった。小平第三小学校の『学校日誌』を拝見する機会を得たが、そこにはわずかであるが雪の記述がある。

たとえば昭和29(1954)年度の1月の記述には、「大雪昨夕刻より降り続く此の冬初めてなり、今一尺位、静かな銀世界」とある。そして雪は、翌24日(日曜)も降り続け、25日(月曜)になっても降り止まず、欠席者は38名にも上った。前週の月曜日が欠席者10名であったので、その多さが、大雪を物語っている。雪は、翌26日(火曜)に止んだが、校庭は一面雪野原であった。そこで、粋な教師の計らいで急遽雪合戦がはじまった。下校前の六時限であった。「大雪合戦、三年より六年まで参加、二年生見学、全教員も参加し、レコードをかけ、さかんなり」とある。

当日の新聞を見ると、多摩全土を覆った大雪模様が報じられている。「子供スキー売切れ」(「毎日新聞」都下版1954年1月25日)、「街にスキー場出現」(同1月26日)、「震え上った三多摩/赤ちゃんが凍死/水道の故障が続出」(同1月28日)などの見出しが続いている。このような大雪のなかでの雪合戦は、子どもに大きな印象を刻んだことであろう。だが、校庭で繰り広げられた雪合戦が、いつしか姿を消してしまうのである。

『学校日誌』では、雪の記述が途切れ、再びでてくるのが、昭和45(1970)年2月13日である。これは、校庭に積雪があったのにもかかわらず、「雪合戦」が中止になった記事である。「学力低下」を恐れ、授業優先かと思いきや、そうではなかった。校庭に「砂玉」が多くなり、危険を察知した教師の判断で、雪合戦を中止したのである。「砂玉」とは何だろう。調べてみると、その正体は石炭ガラであった。雪玉にその破片が混じり、けが人が出るおそれがあったので、教師がとった配慮であった。

ではなぜ、石炭ガラなどが校庭に敷かれたのであろう。どうも霜柱対策のようである。霜柱は、小平の冬の風物詩であった。農地や庭のみならず道路までも12月になるとヌカリはじめた。とりわけ校庭の霜柱との戦いはすさまじいものがあった。それは昭和42年次においても変わりなかった。そのため12月16日(土曜日)の一斉下校が中止になったのである。「小春日和の平穏な一日であった。校庭の霜どけ、ぬかるみ、一斉下校、中止にふみきる。」とある。そのうえ、この当時まで、秩父方面からの空っ風(「おかま風」)は、激しく、校庭の霜柱が乾くと、砂塵として舞い上がった。昭和53年2月23日の「日誌」には、「春一番きたる?あたたかい風、舞う土ぼこり。天、茶色におおう。樹々の梢わなわなゆれ渦となる。」という文学的な記述がみられる。この頃まで、砂塵はわがもの顔で巻き上がり、内側の窓枠までもが、さらには机上のみならず床までザラザラにしていたのである。その対策に、校庭に砂や炭殻(石炭ガラ)を敷き、整地を施していたのである。そういえば、はやくは昭和28(1953)年12月2日に「校庭炭殻整地」なる記述がある。石炭ガラを敷き詰めた記事であろう。この時代は、石炭がエネルギーの根幹を担い、その燃え滓である石炭ガラが大量に排出されていたのである。その燃え滓が、三小の校庭にも敷かれたのである。確かに、眼を転じれば工場地帯では巨大煙突からもうもうと煙が排出され、黒い人工雲が空を覆っていた。そして、その下では、鉱山の陥没事故がつづき、労働争議も頻繁に起きていた。しかし、それも長引きはしなかった。石炭から石油へエネルギー源が変わっていったのである。そして、石炭ガラの排出もみるみる減少していった。校庭も、その後、石炭ガラを取り除き、霜柱対策を施しながら整地され、冬の日も校庭で運動や遊びができるように改善されていった。そして、昭和60(1985)年2月19日(水)の降雪のおりには、「雪合戦」が三小でも復活したのである。だが、雪合戦の光景は一変していた。校庭の大地ではなく、校舎の屋上で行われたのである。そして、全校児童ではなく、学年ごと、クラスごとの雪合戦であった。「砂玉」入り雪玉を気にしないで投げ合うことができたが、全校生徒が音楽のなか勇ましく合戦する壮大さはなかった。

その後も学校での雪合戦はあったものと思われるが、近年は、気候変動も一因となって学校での雪合戦を見ることが少なくなったような気がする。雪がしんしんと降るなかでの登校も、雪が降り積もったまばゆいばかりの校庭の光景も、遠い過去の光景になろうとしているようだ。小平の小学校で「雪合戦」をしなくなる、そんな日が遠くないのかも知れない。


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