市史編さんこぼれ話 No.２「あかしあ通りのエピソード」

1.50年前は

私共は昭和35年(1960年)、小平町小平学園東区に小さな家を建てて引っ越してきました。

今のあかしあ通りのそばです。二階建ての家が二軒ほどあるだけで、周囲には点々と家があるのみでした。

都心に通勤していた私は、手動ドアの西武多摩湖線にびっくり。こんな田舎によくぞ…と、後悔の念を感じたこともありました。

春は、空っ風で雨戸を閉めていても家中砂ぼこり、夏の終わりには、近くの雑木林や草むらで虫たちがやかましいほど鳴いていました。

終電車に乗り遅れた夫が、国分寺駅から歩いて帰る途中、玉川上水で蛍を捕まえてきて、蚊帳の中に放したこともありました。

2.あかしあ通りができることになって

こんな自然の残るこの地に、都市計画道路が通ることになりました。

五年遅れて、わが家の東隣に建てた弟の家が、この計画道路にかかることになり、移転することになりました。新しく建て直すのではなく、道路を二本隔てた北側に曳き家をすることになったのです。周囲が畠や雑木林だったからできたのですが、コロを敷き詰めてその上に家を載せて100メートル程の距離を動かすというのです。

子育て中だった私は、家を曳くということに興味津々で、一日中眺めていました。小川家文書に記録された話で、小川村名主家の金木犀が江戸城にお買い上げになって、青梅街道を何か月もかけて運ばれて行ったということと重なり、大きなものを動かす様子にとても感動しました。

道路工事が始まると、大型のショベルカーや建設機器が入ってきて、それは賑やかになりました。北側の畠には、埋設される大きな土管や機材が沢山置かれ、子どもたちのよい遊び場になっていました。しかし、工事が進み、わが家のすぐ東側が深く掘り下げられ南北に大きな堀が出現した時には、事の重大さを感じました。

3.開通前の通りで

小平駅に向けて一直線の広い道路整備が一段落し、仮舗装のなった秋の終りの頃でした。テニスが好きだった私は、小平に引っ越してきて、まず最初にテニスコートを探しましたが、当時は良いコートがあまりありませんでした。しかし、車の通っていないあかしあ通りは立派なテニスコートです。工事の人たちが帰った後、こんなチャンスは二度どないと、いやがる夫を急きたて、二人の子どもをバックに立たせてボール拾いをさせ、二人でテニスをしたのは楽しい思い出です。

ボールを打つ音がよく響くので気が引けてすぐ止めましたが、次の日からは子どもたちのローラースケート場になりました。それも、開通前の束の間の事でした。

やがて開通式も賑やかに終わり、昭和46年(1971年)にあかしあ通りは両側に歩道のついた二車線道路として開通しました。今では、市民祭の会場になったりして、この日は違った賑わいを見せています。

4.歩道橋

数年前に撤去されましたが、あかしあ通りには歩道橋がありました。

開発が進むにつれて、雑木林がなくなって甲虫の見られる所が少なくなったのですが、歩道橋下の街路灯は夜通し明るくて、カブトムシやクワガタなどの甲虫が集まりました。長男は早起きしてそこに毎日虫取りに出かけて行きました。

また、ある冬の寒い朝のこと、用事で早起きした私は、この歩道橋で東の方に向って頭を下げ、何やら口でもぞもぞ言っている人に出会いました。その人は年輩の奥さんで、思いつめた表情でこよりの様なものを左手に持ち、はだしで階段を降りてきたのです。

今まで見たことはなかったのですが、これはお百度詣りだと直感しました。神社の境内で「お百度石」を見たことがありますが、実際にお百度詣りをしている人に出会って戸惑いました。見ないふりをして行き過ぎて振り返ってみると、その人は、こよりを折ると、また階段を昇って行きました。

信号機に変わった今では、うそのような話ですが、歩道橋がなくなった当初はふとこの事が思い出されたものです。

小平に住んで50年、あかしあ通りが開通して40年近く経ち、街の景観もだいぶ変わりました。近頃は、小平市の水と緑と公園課で新たなあかしあ通りの計画が始まっています。あかしあ通りのエピソードを思い出しながら、素晴らしい街づくりになることを期待しています。